パンドロデヴとは?高加水ハードパンの特徴と作り方

パンドロデヴの作り方を確認しながら、高加水ハードパンの焼き上がりを楽しむ女性のパン作りシーン 種類別レシピ(ハード・食パン・菓子・惣菜・成形)

パンドロデヴは、フランス南部に実在する小さな町ロデヴが発祥の高加水ハードパンです。加水率が90〜100%に達するため、クラム(内側の白い部分)には大きな不規則な気泡が入り、口に入れるとみずみずしいもちもち感が広がります。バゲットとは一線を画す独特の食感に驚く人も多く、一度食べると忘れがたい味わいです。

生地は非常に柔らかく扱いが難しいため、ホームベーカリーや手ごねで挑戦すると「まとまらない」「広がってしまう」といった壁にぶつかりやすいパンでもあります。コツをつかむ前に全体像を整理しておくと、工程ごとの判断がしやすくなります。

この記事では、パンドロデヴの成り立ちと特徴から始め、配合・バシナージュ・発酵・成形・焼成の各工程で押さえておくべきポイントを、順を追って整理します。難しそうに見えるパンですが、理由を理解してから取り組むと作業の意味がつながり、仕上がりが安定してきます。

パンドロデヴとはどんなパンか

パンドロデヴがどういうパンなのかを把握しておくと、レシピを読んだときに「なぜその工程が必要なのか」が見えてきます。背景・特徴・他のハードパンとの違いの3点を整理します。

フランス南部ロデヴ生まれの食事パン

パンドロデヴ(Pain de Lodève)の名前は、フランス南部ラングドック・ルーション地方にある人口約8000人の町ロデヴに由来します。パン・ド・ロデヴ普及委員会の資料では、現地ではこのパンを「パン・パイヤス(Pain de paillasse)」と呼び、布張りの柳の籠(パイヤス)で発酵させ、計量も成形もせずに焼く伝統的な製法が今も受け継がれていると紹介されています。

日本では、フランスで修行した職人たちによって1990年代以降に紹介・普及が進みました。原産地の製法をもとに、日本のパン職人がアレンジを加えながら広まったという背景があります。食事パンとして扱われ、スープやチーズとの相性がよく、トーストして楽しむこともできます。

加水率90〜100%が生む食感の仕組み

バゲットの加水率が一般的に70〜78%前後であるのに対し、パンドロデヴは90〜100%と大幅に高い水分量で仕込みます。水分が多いほどグルテンの網目構造が緩くなり、発酵で発生した炭酸ガスが大きな気泡として生地内に残りやすくなります。これが、断面に見える大きくランダムな穴(オープンクラム)の正体です。

水分量が多い生地は焼成中に蒸発する水分も多く、クラストが薄く軽いパリッとした食感に仕上がります。一方、クラム(内側)には水分が保たれるためしっとりもちもちした口当たりが生まれます。この対比こそパンドロデヴの最大の特徴で、時間が経ってもクラムの水分感が持続しやすい点も魅力のひとつです。

バゲット・カンパーニュとの主な違い

パンの種類加水率の目安主な酵母クラムの特徴
バゲット70〜78%イースト細かい気泡・さっくり
カンパーニュ70〜80%ルヴァン種・イーストやや密・しっとり
パンドロデヴ90〜100%ルヴァン種・イースト大気泡・みずみずしい

バゲットは成形でしっかりとしたテンションをかけるのに対し、パンドロデヴは成形をほとんど行わずスケッパーで切るだけが基本です。カンパーニュと同様にルヴァン種(小麦から起こした発酵種)を使うレシピが多いですが、イーストだけで作るレシピも存在します。

材料と配合のポイント

加水率が高いパンドロデヴでは、使う粉の種類と配合が仕上がりに直結します。粉・酵母・塩それぞれの選び方と、水分量の考え方を整理します。

粉の種類と選び方

パンドロデヴには、たんぱく質含有量が高い強力粉や準強力粉がよく使われます。高加水に耐えるには、吸水力が高くグルテンを形成しやすい粉が適しています。製粉会社の資料では、たんぱく質含有量が13%前後の強力粉は吸水性が高く、高加水生地のまとまりを助けると説明されています。

全粒粉やライ麦粉を一部加えると、風味が深まり発酵も活性化されやすくなります。全粒粉はふすまを含むため吸水量が増え、配合割合が増えるほど仕上がりが重くなる傾向があります。初めて作る場合は、強力粉(または準強力粉)を主体に、ライ麦粉または全粒粉を10〜20%加えた構成から試してみると扱いやすくなります。

酵母の選択肢と特徴

パンドロデヴの伝統的な製法ではルヴァン種(小麦粉と水だけで起こした天然発酵種)を使います。ルヴァン種が加わると、乳酸発酵由来の酸味とコクが生まれ、クラムの気泡もより大きくなりやすいです。ただしルヴァン種の管理には一定の手間と経験が必要です。

インスタントドライイーストだけで作るレシピでも、高加水の特性を生かしたパンドロデヴに近い仕上がりになります。この場合、発酵がルヴァン種より速く進むため、生地温度と発酵時間の管理がより重要になります。初心者にはイーストを使い、加水率を90%から試してみるのがよいでしょう。

塩と加水率のバランス

塩はグルテンを引き締め、生地のだれを防ぐ役割を持ちます。高加水生地では塩の効果が特に重要で、塩が少ないと生地が広がりすぎてまとまらなくなります。粉重量の2%前後が標準的な配合で、これを下回ると成形・焼成の安定性が低下しやすいです。

加水率は一度に目標値まで上げず、まず全体の水分量の約90%を最初に加えて生地をまとめ、残りをバシナージュ(後足し水)で少しずつ加えていく方法が一般的です。最初から全量を入れると生地がまとまりにくく、グルテンが形成されにくくなります。

【配合の目安(粉100%に対して)】
強力粉・準強力粉:80〜90%
ライ麦粉または全粒粉:10〜20%
塩:約2%
水(ベース):80〜90% + バシナージュ用:10〜20%
酵母:ルヴァン種またはインスタントドライイースト

バシナージュと生地作りの手順

パンドロデヴ作りで最も独特な工程がバシナージュです。水を後から加えていく方法で、なぜこの手順を踏むのかを理解しておくと、生地の状態で判断しやすくなります。

バシナージュとは何か

バシナージュ(bassinage)とは、ある程度グルテンが形成されてから残りの水分を少量ずつ追加していく技法です。最初からすべての水を加えると粉と水が均一になりすぎてグルテン形成を妨げるため、先にまとまりを作り、その後で吸水させていきます。

追加する水は冷水が推奨されています。これは生地温度の上昇を防ぐためで、こね上がり温度が高くなりすぎると発酵が速く進み、工程の制御が難しくなります。バシナージュの水を加えるたびに生地が一時的にだれますが、こねを続けると再びまとまってきます。だれた状態でやめてしまうのが失敗の原因のひとつです。

手ごねでのまとめ方とコイルフォールド

パンドロデヴの特徴や作り方を解説するため、高加水ハードパンが並ぶベーカリー風のキッチンカウンター

手ごねでパンドロデヴを作る場合、ベーカーの手法として「コイルフォールド(coil fold)」が広く使われています。容器ごと生地を持ち上げ、端を中心に折り込む操作で、グルテンのつながりを高めながら生地を傷めにくい点が利点です。

フロアタイム(一次発酵中)に1時間おきに3〜5セット行うのが目安です。最初は生地が手に張り付きやすいですが、回数を重ねるごとにふっくらとまとまってきます。スタンドミキサーで作る場合も、低速で時間をかけてこねた後に手作業でコイルフォールドを加えると安定します。

こね上がり温度と発酵温度の管理

こね上がり後の生地温度は24〜26℃が適切な目安です。これより高いと一次発酵が速く進みすぎ、気泡構造が崩れてクラムの食感が変わります。仕込み水の温度を調整することで、こね上がり温度をコントロールできます。

一次発酵は室温25〜28℃前後で2〜4時間が目安ですが、ルヴァン種の活性度や室温によって大きく変わります。生地が1.5〜2倍になり、表面が丸くぷっくりとしてきたら発酵完了のサインです。時間よりも生地の状態を優先して判断してください。低温長時間発酵(冷蔵庫で一晩)にすると、翌日に続きを進めやすく、風味も深まります。

【こね・発酵の判断ポイント】
こね上がり温度:24〜26℃を目標に仕込み水温を調整する
コイルフォールド:1時間ごとに3〜5セット繰り返す
発酵完了の目安:生地が1.5〜2倍・表面がぷっくりと丸くなる
低温発酵を活用すると工程を翌日に分けやすい

成形と焼成のポイント

パンドロデヴの成形はシンプルですが、高加水生地ならではの注意点があります。扱い方と焼成時の環境設定が、クラストとクラムの仕上がりを左右します。

成形はスケッパーカットが基本

パンドロデヴの伝統的な成形は「計量・成形なし」で、発酵後の生地をスケッパーで切るだけです。丸めたり巻いたりする工程を加えると生地の気泡が潰れ、オープンクラムが失われてしまいます。切り出した後はペーパーを敷いた天板にそのまま並べ、すぐにクープ(切り込み)を入れます。

生地を扱うときは打ち粉を多めに使い、素早く作業するのが基本です。高加水生地は常温で置くほどだれやすくなるため、成形から窯入れまでの時間を短くするとよいでしょう。クープは浅く入れすぎると割れが弱くなるため、思い切って1〜2本しっかり入れると膨らみが安定します。

蒸気と高温焼成の重要性

パンドロデヴは240〜250℃の高温で焼き始めます。最初の15〜20分間は蒸気が必要で、これによりクラストの形成を遅らせ、生地が十分に膨らんでから表面が固まります。家庭のオーブンでは、熱した天板に熱湯を入れた小さな容器を入れるか、鍋や鋳鉄ダッチオーブンで覆う方法が使えます。

蒸気工程の後はふたや覆いを外し、さらに10〜15分焼いてクラストをしっかりと色づけます。焼き色が薄いままだとクラストが柔らかくなりすぎ、冷めるとべたついた仕上がりになります。クラストがこんがりと濃いキツネ色になるまで焼ききることが大切です。

焼き上がり後の扱いと保存

焼き上がり後はケーキクーラーや網の上で最低1時間以上冷ましてから切ります。高加水のパンは内部に水分が多いため、切るのを急ぐと気泡がつぶれてクラムがべたついてしまいます。断面の大きな気泡を楽しむためにも、完全に冷ましてからスライスしてください。

保存は常温の場合、布巾やペーパータオルで包み2〜3日が目安です。スライスしてから冷凍保存すると、食べる分だけトーストして楽しめます。冷凍した場合はトースターで加熱すると、クラストのパリッとした食感が戻りやすくなります。

保存方法目安期間食べ方のコツ
常温(布包み)2〜3日カットして軽くリベイク
冷凍(スライス)2〜3週間凍ったままトースターで加熱

失敗しやすいポイントと対処の考え方

初めてパンドロデヴを作ると、生地のだれ・気泡が入らない・クラストが薄くなるなどのトラブルが起きやすいです。症状ごとに原因を切り分けると改善の糸口が見つかりやすくなります。

生地がまとまらない・だれる

高加水生地がまとまらない主な原因は「一度に全量の水を加えた」「こね上がり温度が高すぎた」「コイルフォールドの回数が足りなかった」の3点です。バシナージュ用の水を少しずつ加え、生地がまとまったことを確認してから次の水を足す手順を守るとグルテン形成が安定します。

生地温度が高い状態でフォールドを続けると酵母が過剰に活性化して生地がだれやすくなります。こね中に生地温度が27℃を超えたと感じたら、一度容器ごと冷蔵庫で10〜15分冷やしてから続けると扱いやすくなります。

クラムの気泡が小さい・詰まっている

大きな気泡が入らない原因として多いのは、「成形でガスを抜きすぎた」「発酵が不足していた」「水分量が少なかった」の3点です。成形時は生地を優しく扱い、丸める・押す操作は最小限にとどめてください。

発酵の見極めは、フィンガーテストよりも生地全体の丸みとふくらみで判断するのが高加水パンには向いています。表面にふつふつと気泡の跡が見え、生地全体が軽くなったように感じられたら発酵完了のサインです。発酵時間より状態を優先してください。

クラストが薄くなる・べたつく

クラストが薄くなる主な原因は、焼成温度が低い・蒸気工程後の追い焼き時間が足りない・冷ます前に切ったの3つです。家庭のオーブンによっては設定温度と庫内実温に差があるため、オーブン用温度計で実温を確認しておくと安定します。

焼き上がり後の冷まし不足もクラストのべたつきにつながります。高加水のパンはクラム内の余熱で水分が移動し続けるため、最低でも45〜60分は網の上で冷ましてから切るとよいでしょう。

【トラブル別チェックポイント】
生地がだれる:バシナージュを段階的に行ったか・こね上がり温度が高すぎないか
気泡が小さい:成形でガスを抜きすぎていないか・発酵が十分か
クラストが薄い・べたつく:追い焼きが十分か・完全に冷ましてから切ったか

まとめ

パンドロデヴは、加水率90〜100%の高加水ハードパンで、大きな気泡と薄いクラスト・みずみずしいクラムが最大の特徴です。バシナージュで水を段階的に加え、コイルフォールドでグルテンを育て、成形は最小限にとどめる一連の工程がそのまま仕上がりに直結します。

初めて作る場合は、加水率を90%から始め、ルヴァン種ではなくインスタントドライイーストを使い、低温長時間発酵を取り入れると工程が管理しやすくなります。生地が完成したらスケッパーで切るだけの成形と、高温+蒸気焼成の2点を丁寧に実行してみてください。

少し手順が多いように感じるかもしれませんが、各工程に意味があるパンです。一度コツをつかむと応用がきくようになるので、ぜひ自分のペースで試してみてください。

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